経営理念があれば怖くない!
「うぉー、く、く、く‥」
後ろから大きな泣き声。
「お前たちは、この映画を見て涙も出ないのかー!!!」
場所は、銀行の業務役席者会議での一幕。
振り向けば、なんと鬼と恐れられている理事長。
(鬼の目にも涙‥)
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その映画とは「てんびんの歌」
「てんびんの歌」というのをご存じだろうか?
主人公は「近藤大作」
近江商人の長男坊として生まれた者は、
小学校を卒業するとすぐに行商に行かされる。
物が売れたときに、初めて後継ぎとして認められるのだ。
大作が、売るのは「鍋ぶた」である。
(鍋ぶたを売るくらいなこと、簡単、簡単)
(親父に世話になっていると、いつも言っている女中のお咲の家に行けばすぐに買ってくれるだろう)
朝起きて向かった先は、お咲の家。
「お咲!いるか!」
「鍋ぶた、買うてくれ!」
「まあ、ぼん!朝早くから何ですかねぇ」
「鍋ぶた、買うてくれ!」
この行商が、大作が一人前になる訓練だと知っているお咲。
「ぼん!うちには鍋ぶたは売るほどあるさかい、いりまへん!」
「こうてくれ!」
「いりまへん」
「わかった!もうええ!わしが後継ぎになった時には、おまえなぞ、クビじゃ!」
と捨て台詞。
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そのあとも、出入りの者のところへ行くが、どこでも断わられてしまう。
翌日も、また翌日も、同じようにてんびん棒に鍋ぶたをのせて、出かける大作。
その陰で、父は茶断ちをし、母は心で泣き、見守る周囲の人々が
彼以上につらい思いをしていることに、大作は気づかない。
(どうしたら、売れるんや)
そんな時、他の行商人がどのように物を売っているのかを観察する。
「だんさんー!今日はいい天気で‥」揉み手をしながらお客さんに近づく行商人。
(ああすれば、ものは売れるんか)
「だんさんー!へ、へ、へ、今日はいい天気で‥」
揉み手をする大作。
「このクソガキ!気色の悪い!向こうに行け!」とけんもほろろ。
毎日毎日、どんなことをしても鍋ぶたは売れない。
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(そうだ!遠くの親戚の叔母に頼みに行けば、よう来たと買ってくれるかもしれんな)
朝早くから家を出て、叔母の家に向かう。
叔母の家に着いたのは、夕方。
「まあ!大作!こんな時間にどうしたの?」
「鍋ぶた買うてくれ!」
これは訓練だと知っている叔母。
「あいにく、うちは鍋ぶたは間に合っているよ。
それより、こんな遠いところよう来たな!風呂でも入って、明日、お帰り!」
「いや!帰る!」
涙を流す大作。
家では、心で泣いて心配する母親。
どうしたら売れるんや!
「どうしたら売れるんや?」
ある時、橋のたもとを見ていると、
たくさんの鍋ぶたが干してあるのが目に入る。
(そうや!あの鍋ぶたを川に流してやれば‥
困った持ち主が買ってくれる‥)
橋の下に降りる大作。
そして鍋ぶたを手に取り、流そうとした瞬間!
(この鍋ぶたを売った人も、苦労して売ったんやろうな‥)
と思うと、一つ一つの鍋ぶたが、愛おしくて、愛おしくて、
愛しさが込み上げてくる。
その愛しさに涙を流しながら、
そこにあった、たわしで、鍋ぶたを洗う大作。
「こら!お前はそんなところで何をしてるんじゃ!」
振り向くと、そこには鍋ぶたの持ち主が‥
逃げようとするが、つかまってしまう。
そして、正直に話をする。
鍋ぶたを流してしまえば、買ってもらえるかもしれないと思ったこと。
今までの売るための苦労。
流そうとしたとき、鍋ぶたが、愛おしくなったこと。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「お前は、いい子じゃのー」
「えっ!」
「わかった!鍋ぶた、買うてやる!
そしてな、知り合いにも声かけてやるわ!」
(この時に、鬼の理事長が号泣!!!)
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そうなんです。
売り手と買い手の心が一つになったとき、物が売れるのです。
その日、大作のかついでいた天秤棒に、日付と名前が入りました。
そして、床の間の歴代の天秤棒の下に並びました。
「この映画を見て涙も出ないのか!
涙が出ないなら、お前たちは人間じゃない!」
とおっしゃた理事長。
この映画を見て、感じるものは多々ありましたが、
また理事長を見て、
喜怒哀楽を出す素直さ、勇気も人間的魅力の1つとして
必要なことを感じさせていただきました。
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